前回は市民協働による公園づくりのお話でした。では、公園の運営や利活用においては市民のみなさんとどのように協働していくのか、また、市民みなさんの活動を支援する仕組みはどのようにつくっているのか。今回はそこに注目します。
実践06:小規模公園活用プロジェクト
公園づくりはあくまでソフト(サービス)が先であり、ハードありきではないと、高井さんは述べています。前回ご紹介した公園再配置計画でも、ソフトとハードの両面を盛り込むことにこだわったそうです。その大事なテーマである“小規模公園の活用”に向けて、ワークショップを通じて市民主体で動き始めた小規模公園活用プロジェクトがあります。それが市民グループ「ひばり日和。」の活動。市の計画の策定と並行して、計画に基づいたアクションが既に市民中心で始まっています。
高井さん:小規模公園で市民主催の「小さな野菜市」というのが開催されました。地元の農家の方に野菜を販売していただいたのですが、とてもよく売れたと言っていましたね。地域のお年寄りの方も、遠くまで行かずに新鮮野菜が安く買えて、喜んでいました。通常は公園での収益事業というのは認められていませんが、これは指定管理者※との共催事業として行ったため、収益化もOKでした。
(※指定管理者制度については次回詳細をご紹介します)
ひばり日和。のみなさんは、独自のfacebookページを立ち上げ自分たちで情報発信も行っています。
- ひばり日和。facebookページ:https://www.facebook.com/hibabiyo/
実践07:市民による市民のためのサービス
さまざまな対話の機会が、市民のみなさんの主体的な活動を促進することにもつながっている西東京市。そうした市民活動が、市民サービスとしても機能しているそうです。
高井さん:ボール遊び問題に端を発した市民懇談会をきっかけに生まれたのが「おもいっきり遊び隊」というミニプレーパークです。これは子育て中のママさんたちが主催して管理するもので、その分ちょっと自由度の高い遊び場になっています。市民の方が実現したいと思う遊び場を自ら主体的に運営することで、それ自体が市民サービスとなった例です。
高井さん:公園づくりを市民みなさんと一緒にやるのと同じように、公園のサービスづくりも市民の主体性を活かすことで、利用者本位の企画を作ることができます。かえって役所主催の事業よりずっと良いものが作れるのです。
〈様々な市民主体の事業〉
- 雑木林の若返り事業に取り組むボランティアによる、親子の山仕事体験会
- 管理運営から観光ガイドまでを市民が行う薔薇の公園 保谷町ローズガーデン
- 市民の企画提案型で作った「みどりの散策マップ」と市民がガイドする散策路めぐり
高井さん:その他にも、高校の課外授業をボランティアの方にやってもらったり、市の花「コスモス」を植える活動をボランティアと小学校の共同事業として実施したり、さまざまな事業で市民の方々が「事業の主催者」としても力を発揮されています。とくに子どもたちが参加する活動では、ボランティアの方のサポートがあることで、子どもたちを次のボランティアとして育てることにもつながります。このように市民のみなさんが主体的に動いてくださる場合、行政の役割は安全管理を行うなど黒子に徹することです。
実践08:市民活動を支える行政の仕組み
西東京市には、こうした公園を活用したさまざまな市民活動を支援するための仕組みを設けているそうです。
高井さん:まず、苦情や要望は情報管理システムでデータベース化し、情報共有するとともに、処理状況などの進行管理をしています。苦情・要望の案件によっては、必要に応じて市民懇談会を行い、新たな市民ニーズなどの掘り起こしを行っています。また、市民の活動を支援するためには、市民協働の窓口を明確化することが大切です。そのために、西東京市では公園を管理運営する部署に市民協働担当の職員を置いています。
このように、市民主体の公園づくり・公園活用を推進するためには、市民と向き合うための仕組みや体制を作ることがとても重要なのです。
実践09:公園を自己実現の場へ
市民のみなさんが事業の主催者にもなっていくという西東京市の市民協働の取り組み。そこにはもう一つの価値があると言います。
高井さん:公園における市民協働は、市民のみなさんの自己実現の場になると思っています。
マーケティングによく活用される「マズローの欲求5段階説」では、最も高い次元の欲求として「自己実現欲求」その次に「承認欲求」というものがあります。
高井さん:市民のみなさんが自ら企画・主催することは、自己実現につながると思います。そして参加した市民のみなさんによって評価(承認)してもらえることも大切です。イベントが終わったらみんなで拍手をし、主催者である市民の方々に感謝する。些細なことに思えますがそういうことがとても大切だと思います。また「東京都公園協会賞」「みどりの愛護功労者国土交通大臣表彰」を市内のボランティア団体が相次いで受賞しましたが、こうした外部の表彰制度も大きな励みになります。
高井さん:顕在化しているニーズに応えることはもちろんですが、市民(消費者)がまだ気づいていないサービスを提供できるとさらに良いと思います。私は、それが「自己実現」や「感動」ではないかと思っているのです。私は、公園における市民協働を通じて、市民のみなさんに感動してもらえるような場を作りたいと思っています。
#03のまとめ
西東京市には、市民のみなさんが自分たちのニーズを叶えるために、自ら行動を起こしていく、そんなたくさんの事例があります。主人公は市民のみなさんであり、行政は黒子として市民のニーズや行動を引き出し、理解し、サポートしていくことに徹する、そのポリシーに従って関係性をうまく構築しています。それは、市民協働のための仕組みや体制があることで実現・継続できているのです。
さらに、市民協働は行政におけるマーケティングであるというのが、高井さんの考えです。市民に必要とされているものをサービスとして提供していく、そのためには行政は市民を理解しなくてはいけない。そうすると、自ずと市民と一緒にサービスを作っていくことになるのでしょう。様々な制度を活用して「公園」という場所を使いこなすことは、こうしたサービスやソフトを開発していくことに他なりません。
連載:公園における市民協働の実践
好きな公園:木場公園、清澄庭園
ふらりと行った公園で生まれる偶然の出来事や出会いを楽しむのが好きです。