ここ数年、公園で行われる野外映画イベントが増えてきました。東京都にある新宿中央公園でも「新宿パークシネマフェスティバル」が行われています。開催期間は7月から10月までの間の不定期。好評だった昨年に続いて、今年も無料で上映しています。
なぜ公園で映画を上映するのでしょうか。主催の新宿観光振興協会事務局長・菊地加奈江さんに開催の経緯やイベントの魅力、その効果などを伺いました。

街中に突如現れたスクリーン 写真提供:新宿観光振興協会
「この情景いいねえ」から始まった企画
―― まずは開催のきっかけと経緯を教えてください。
菊地さん:たまたま映画プロデューサー鎌田雄介さんという方と全然違うイベントで打ち合わせをしていまして、そのついでで一緒に新宿中央公園を見に行ったんです。すると「この情景いいねえ」という話になりました。
世界でも活動していらっしゃる鎌田さんからは、ニューヨークのセントラルパークでも野外映画会を開催しているということを教えていただきました。ちょうど私たちも新宿西口に新しい楽しみ方を提供できないかと探っていたところだったんです。鎌田さんの「映画にも楽しみ方がある、広がりがあるんだということを提供していきたい」という思いと合致して、手弁当状態で企画を立ち上げました。

新宿観光振興協会事務局長・菊地加奈江さん
映画が呼び込んだ、新しい公園利用者
ー開催にあたって、課題などはありましたか?
菊地さん:新宿中央公園は新宿駅西口から距離があります。この間にショップなどがあるわけではないので、足を運んでもらうのは簡単ではありません。それでもやるからには一定程度、席が埋まるくらいには楽しんでもらいたい。口コミでジワジワと広げていきたいと思っていました。
最初の頃のお客さんは新宿西口のワーカーさんが多くて、新たな客層には結び付かないのかなあと思っていたのですが、回を重ねていくうちに新宿中央公園の真下の都庁前駅(都営大江戸線)からどんどん人が上がってきて、椅子が埋まっていきました。私たちは西口ばかりを気にしていたのですが、違う方向からもお客さんは集まってきたんですね。これは新たな発見でした。地域の商店街の方々には、「カップルや海外の人など今まで見ない層の人たちが来ているよ」と言っていただきました。

さまざまな層のお客さんが来場しました 写真提供:新宿観光振興協会
新宿中央公園ならではのシネマイベントとは?
ーずばり、このイベントの魅力は何でしょうか?
菊地さん:新宿中央公園は、新宿でしか得られない超高層ビルの中にあり、森林が広がっています。この中で映画を上映。ほかでやろうと思ってもできません。ダイナミックさを感じられ、立体的にスクリーンが浮かび上がってきます。
新宿って飲みに行くイメージが強いと思うんです。このイベントではお酒を飲む以外の楽しみみたいなものをご提供できればと思っています。

キッチンカーも登場し、イベントを演出します 写真提供:新宿観光振興協会
ー逆に「公園」という会場ならではの難しさはありましたか?
菊地さん:野外は全て天候に左右されてしまうので、やっぱり天気ですね。楽しみにしてくれているお客さんに対しての周知なども考えますと、はっきりしない天候のときは天気予報とにらめっこしながら、判断する難しさはあります。ちなみに私たちは、1時間で設営できるエアスクリーンを使用しているので、ぎりぎりまで判断を待つことができます。
それから、音の面では神経質になっています。公園の周辺にお住まいの方がいらっしゃるので、音の関係で皆さんにご不快な思いをさせてはならない。商店街の方、町会の方にもご挨拶させていただいた上で、音の調整もさせていただいています。また、スクリーンの裏のほうまで行って、どの程度の音量なのかを確認。住宅街の方にはご迷惑をかけないことを原則としてやらせていただいてます。本当は映画なのでダイナミックな音でボーンとやった方がいいのかもしれませんが、そういう風にやってしまうと地域の方々と一緒に盛り上げていくことが難しくなってしまいます。風向きで音の伝わりも変わるんですよ。建物の中でできることとは違うんですね。ここで続けていく限り、そこは絶対の配慮が必要なんです。

犬を連れてくるお客さんも 写真提供:新宿観光振興協会
私たちの役割は“箱から飛び出る”こと
ーイベントを公園でやる意味とは何でしょうか?
菊地さん:「新宿に新たな集客を」もしくは、「新宿ってこんなこともできる街なんだ」と思ってもらう、それが観光振興協会としては重要です。「施設の中でやれば雨の心配なんかないじゃん」と言われるんですが、それは私たちの役割なんだろうかと考えました。建物の中では、民間企業や文化団体、行政などがいろんなことにを取り組んでいらっしゃいます。私たちはそこから違った発想、箱から少し飛び出たところで来街者に楽しんでもらうということをしていかなければなりませんらない。発想の転換をしていかないと、観光振興協会がやる意味がないなと思っています。
ー公園と観光振興協会、相性がいいのかもしれませんね。
菊地さん:そうですね。私たちは新宿通りでもイベントをやっているんですけど、道路を使うとなるとハードルが高い。来街者の迷惑をかけないように交通規制をしなければなりません。
街が持っているハード的な条件があって、街の持っている個性としっかり向き合ったイベント展開をしなければ新宿をPRしたことになりません。よそでやっているから同じことを持ってきてやれば面白いでしょということにはなりません。新宿が持っている特性と一緒にやるというのが重要です。

「高層ビルの中でやるから意味がある」と菊地さん
公園は、もっと活用できる!
ー公園で映画上映を開催して感じたことはありますか?
菊地さん:新宿中央公園は、大きさもちょうどいいくらいなんですね。もちろん昼間に散歩したり、サラリーマンが休んだりという空間というのも重要だと思います。この映画上映によって、公園そのものを楽しんでもらう。さまざまな空間の活用方法ができる公園なんだなということを、新たに発見しましたね。今まで新宿中央公園が単に通り過ぎるだけだった公園だという方も、足を止めてもらって、改めてこの公園の良さを感じてもらえたと思います。今までここに来なかった人たちが、新たに公園にやってきたということもあります。
また、ある程度の音量なら音楽イベントみたいなものもできるのではないかと思いました。公園の活用を考えていく一つのきっかけにはなったのかもしれませんね。夜の公園って活用するのが難しいですよね。本当は公園っていい空間で、皆でいい形で活用すれば夜の公園の楽しみ方もあると思うんです。これを機会に夜の公園の活用も広がっていくのではないでしょうか。

ダイナミックにスクリーンを感じられます 写真提供:新宿観光振興協会
ー今後に向けて考えていることがあれば教えてください
菊地さん:このイベントを地域の方たちと一緒に育てていきたいですね。うまく成長したら新宿西口だけでなく東口ともつながって映画祭を開催してみたいです。
ただし、お金をポンと持ってきてということではなく、少しずつイベントを育てていくことが大事だと思っています。まずは、新宿中央公園の空間と景観の素晴らしさを感じていただきたいですね。

思い思いに楽しむお客さん 写真提供:新宿観光振興協会
最近ではキャンプ場などでも野外映画会が行われており、映画は建物の中だけで見るものという概念が薄れてきているのかもしれません。そして、菊地さんのお話にもあったように、野外映画会は夜の公園の新しい楽しみ方を提示したものだと感じました。今後は、観光振興協会が”観光”の素材として、もっと公園を活用していく機会が増えていくのかもしれませんね。

Event Information
日程 | 9月7日(金)「マリーゴールド・ホテルで会いましょう」 10月4日(木)「リトル・ミス・サンシャイン」 10月5日(金)「(500)日のサマー」 10月6日(土)「ファミリー・ツリー」 |
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上映開始時間 | 19時上映開始(予定) | ||
鑑賞料 | 無料 | 会場 | 新宿中央公園 水の広場 |
住所 | 東京都新宿区西新宿2−11 | ||
アクセス | 都営大江戸線「都庁前駅」徒歩1分 JR・小田急・京王線「新宿駅」から徒歩約10分 |
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公式サイト | http://www.kanko-shinjuku.jp/cinema/-/index.html http://parks.prfj.or.jp/shinjuku/ |
好きな公園:等々力緑地(神奈川県川崎市)
公園でベンチに座って、ぼんやりして、ぼーっとして、ぼんやりするのが好きです。