去る10月24日、プロ野球チーム・横浜DeNAベイスターズが主催となったトークイベント「YOKOHAMA PARK LIFE #1 〜公園からまちが変わる!?〜」が開催されました。
横浜国立大学にて、アーバンデザインからまちづくりまで幅広く研究されている野原卓准教授、南池袋公園の仕掛け人でランドスケープアーキテクトの平賀達也さん、日本各地でアウトドフィットネスを軸とした事業を手がける黒野崇さんという公園の未来を担う3名を迎え、今、公園に起こっている新しい動きや公園の未来について語りあいました。
当日は約60席がわずか3日で埋まるというほどの大盛況。学生、行政、デザイン事務所、大手ゼネコン、公園管理の社団法人の方など幅広い業種の方々が参加していました。
地域密着を掲げる横浜DeNAベイスターズ
まずは、主催の横浜DeNAベイスターズについてご紹介しましょう。
長く低迷が続いたチームでしたが、IT関連企業のDeNAが買収した後、2012年から7年連続で観客動員数が増加。2015年には横浜公園内にある本拠地・横浜スタジアムの運営会社も買収しました。また、「横浜スポーツタウン構想」「コミュニティボールパーク化構想」を打ち出して、地域密着を重視。今年は横浜・日本大通りを封鎖して、ライブステージや飲食・物販などを展開し、スポーツの力で街に賑わいを創出しています。
では、なぜプロ野球チームが公園に焦点を当てたイベントを開催したのでしょうか。この人に聞いてみました。
横浜DeNAベイスターズ事業本部・林裕幸さん:チームの本拠地・横浜スタジアムは横浜公園の中にあるにもかかわらず閉じた空間になっています。我々はそれを徐々に境界線をなくそうとやってきています。その中で、ボールパークとして目指していくのはどこなのだろうということを常に考えています。我々が持つ野球というコンテンツをうまく活用したいのですが、一民間企業が独りよがりで公園の活用を考えていっても、行政や市民との合意形成を図られないのではないか。それには公園の利活用を考えているということを発信する。専門家のお話を伺い、知見を増やすことが必要なのではないか。イベントを企画した意図はそういったところにありました。
公園は道でもあり、広場でもある
プログラム前半には登壇者のプレゼンテーションが行われました。それぞれ異なる立場から公園に関わっていらっしゃるゲスト3名が、それぞれの経歴から現在取り組んでいるお仕事、活動、そして、公園利用の例などを紹介していらっしゃいました。
野原卓准教授は人々が集まる広場に焦点を当てて、お話を始めました。
野原さん:50-60年代ころには「遊戯道路」というものがありました。東京で公園が足りない時代に道路を歩行者天国のようにして使える場にしていたんですね。公園的な空間は近代から導入されたんです。日本の公共空間は道だか広場なんだかよくわからない、あいまいな場所に人が集まったんです。広場として考えた方がいいのかもしれませんね。
野原さん:横浜都心部についてはですね、60-70年代に人間のための空間づくりをやっていくということで「緑の軸線構想」というネットワークを考えたんですね。海辺と町を緑でつないで場を作っていきましょうと。例えば、横浜公園も斜めにショートカットして歩く人が多いですね。全体のネットワークの中に位置づいています。そういう意味で道と公園を一緒に考えていくというのは大事だと思っています。
公園も今はいろいろな利活用が広がっていますが、空間の在り方を考えた方がいいんじゃないですかね。
その土地の歴史を考えて、地域の人たちとの合意形成を図る
次にプレゼンテーションを行った平賀さんはランドスケープアーキテクトとして、公園や広場など屋外空間の設計を手掛けています。自身が携わった東京都豊島区の南池袋公園は芝生でくつろげたり、イベントがあったりと家族連れや若者が集まる話題の公園です。
平賀さん:豊島区に残っている公園をみると、もともとあった小川の上流、いわゆる湧水が湧いていたような場所だったんですね。公園は神聖で大切な地域の人たちの拠り所のような場所だった。時代の制度が変われど、地域の人たちがいろんな工夫をして、守ってきた場所だと思うんです。
平賀さん:元々、南池袋の周辺は治安が悪くて、地域の方々は公園の管理について区にクレームを言うだけだったんですね。なので、私が最初に行ったのが、地域の人々が自分事として公園の運営に関われるように公園で行われるイベントが地域のためになるかどうかを判断できる役割を与えることだったんです。
そのために「南池袋公園をよくする会」を立ち上げた。でも、地元の合意形成を図るのは大変なんですよ。すごく時間がかかることを前提に関わり続けていくことが大切です。一番良かったのはですね、東京の区の職員として採用してどこにいきたいか聞くんです。これまで豊島区は全く人気がなかったんですが、去年とうとう1位になった。若い優秀な人材が集まるようになったんですね。地域がよくなるとそういうことが起きていくんです。
各地の公園でフィットネスプログラム
3番目のプレゼンテーターは黒野崇さんです。黒野さんは「アウトドアフィットネス」という新業態を立ち上げ、業界から注目を集めています。
黒野さん:私たちは各地の公園でさまざまなアクティビティを融合させてプログラムを実施しています。やっていて思ったのは、気持ちいい空間であれば人は集まるということですね。
黒野さん:ここ10年間は、気持ちいいランニングコースが整備されるようになりました。福岡の大濠公園もランナーの聖地です。ここは公園の中にウォーキング、ランニング、サイクリングと3レーンに分かれているコースがあるんです。ゴムチップが敷かれていて、水たまりができないようにとか、関節に優しいとか、そんなデザインが作られています。また小さい丸い照明が短い間隔であってすごく明るいんですね。女性も安心して走ることができます。
黒野さん:公園や自然などを使うと、景色を楽しむということでモチベーションを保てます。夢中になると気づいたら体脂肪が落ちていたりする。また、そこに人のコミュニティができるので地域が活性化し、自然に触れられるので環境への意識も高まります。
心地よい場所であれば聖地化できる
後半は座談会と質疑応答がありました。さらに突き詰めて公園の未来を描き出します。
野原さん:今、公園の中をどうするのかという話がすごく盛り上がっていて。これはこれで一つ重要なミッションではあるんですけど、それが街の中でどういう場所に位置づいていて、どういう風に活用するのかというのが大事だと思っています。公園の中を考える人、プログラムとしていろんなところに行ってくれる人などがかみ合わさることで、何か新しい価値の創造みたいな次の展開につながるんじゃないでしょうか。
平賀さん:ボールパークも含めてスポーツを通じて、地域の宝を探していくこともできそうだなと思いました。
黒野さん:南池袋公園の話はびっくりしたんです。なんでこんなに人が集まるのか。なんで皆がリラックスしていたのだろう。誰が仕掛けたんだろうと思っていました。
平賀さん:公園は社会の基盤であるべきです。人間が生きていくための。南池袋公園はもともと気持ちいい場所にあるから、リノベーションによってその場所の自然の力を最大化してあげた。人が集まる理由はそういうところにあるのだと思います。
黒野さん:私たちは県外からも集まれるスポーツの場を作れればと思うんです。例えば皇居なんかそうですね。信号がないので走りやすい。だからマラソンの聖地になったと思うんですけど、ああいうのが作れればいいですね。
場づくりに必要なものは?
参加者の方からの質問もありました。
Q:公園や広場を運営する人や組織を育成する取り組みのいい例はありますか。
平賀さん:自然科学に詳しい人が公園を管理すべきだと思っています。もともと公園というのは、都市公害から人々の健康を守るために衛生工学的な視点で作られた場所なんですよね。都市が高密度化するほど、公園が提供する自然の価値を持続的に管理できるスキルや体制が大事だと思いますね。
Q:誰が場づくりをして、運営していくのか。新たな形態を作るためにはどうしたらいいでしょうか?
野原さん:いろんな立場の人が重なり合いながらその場を作っていく。組み合わせを考えていくことが大事なんじゃないかな。ただし、場がないと定着しない。いつもあそこにいると何かがあるという状況がPR効果につながります。私も場の運営に関わっているんですけど、常駐が居なくて週何回かだけ開いているとかうまく回らないですよ。
平賀さん:エリアの価値をいかに上げていくかということに尽きると思うんですね。場づくりとその運営によって、周辺の賃料や人口の流動がどのように変化しているのかを把握することが大切。その上で、地域経済に貢献していることを短期ではなく中長期的な視点で評価できる仕組みをつくるべきです。
黒野さん:場については2つあります。新しいものをデザインするなら、汎用性みたいなものがあってもいいんじゃないかと思います。アウトドアだけでなく都会の会議室でもヨガスタジオにできるようなものにしたりして。またふれあいみたいなものがデザインされるといいんじゃないですかね。今、水辺は護岸工事されていて、水に漕ぎ出したいけど全部鍵がかかっていて開けられない。人工でも砂場にしてあげたりできればいいんですけどね。そんな仕掛けづくりやデザインが必要かなと思います。
好きな公園:等々力緑地(神奈川県川崎市)
公園でベンチに座って、ぼんやりして、ぼーっとして、ぼんやりするのが好きです。