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造園業者と子供たちがつくる、公園コミュニティ「舟橋村園むすびプロジェクト」

インタビュー 2018.07.30
公園文化WEB 連動企画

本記事は一般財団法人公園財団の運営する「公園文化 WEB」からの記事提供でお送りします。今回は、日本一小さな村 ・富山県舟橋村で造園業者が子供たちと公園づくりに取り組む「舟橋村園むすびプロジェクト」のプロジェクトリーダー、 金岡造園(かなおかぞうえん)・柴崎農園・福田園 建設共同企業体代表・金岡伸夫さんのインタビューです。

舟橋村が施策として進める「子育て共助のまちづくり」の一環として立ち上げた「舟橋村園むすびプロジェクト」。そこで「こども公園部長」に任命された10人の小学生たちと一緒に公園づくりに取り組む金岡さんに、プロジェクトの経緯や公園づくりにまつわるエピソードについてお話をうかがいました。

舟橋村園むすびプロジェクト

金岡伸夫さん(後段右から2人目)とプロジェクトメンバーのこども公園部長たち

住民が共に支え合う「共助」の事業

舟橋村園むすびプロジェクト

立山連峰を背景に走る富山地方鉄道本線。富山市内へのアクセスが良好

金岡さん:私は父の後を継ぎ、富山市内で造園業を経営しています。造園業の将来を考え、本業以外のビジネスにも挑戦すべきか模索していたとき、舟橋村の平成27年度「子育て共助のまちづくりモデル事業」の企画コンペに参加しました。

舟橋村は富山県中央部に位置する、面積が3.47平方キロメートルの日本一小さな村(自治体)です。富山市のベッドタウンとして発展し、若い子育て世代の転入が増えたことで、1989年に1,453人だった人口が、2010年には倍の3,006人に増えました。

しかし、核家族割合が増加による地域交流の希薄化や、人口構成割合の偏りが浮き彫りになり、将来は人口減少や地域活力の低下が予想されたことから、村は富山大学と連携協定を締結して「村地方創生プロジェクト」を立ち上げました。

2015年に村は、住民同士が共に支え合う「子育て共助のまちづくりモデル事業」を発表しました。このモデルエリアの核となるのが、村中心部にある京坪川河川公園周辺に整備する「認定こども園」と「子育て支援賃貸住宅 」そして「公園」です。

公園で住民とのコミュニティづくりに挑戦

舟橋村園むすびプロジェクト

「虫取りもできない」ほどきれいに管理されているオレンジパーク

金岡さん:村から公園を管理する上で求められたのは、住民相互のコミュニティを醸成することです。従来の管理業務とは違い、公園運営全体の「コーディネート」を担う、新たなビジネスと捉えています。

プロジェクトの舞台となるオレンジパーク(※京坪川河川公園の愛称)は、きれいに芝が管理されている広場で、滑り台がありますが、普段は子供の姿を見かけない公園です。

多くの人が公園を利用し、使いこなしてもらうためにはどうしたらよいのか。イベントが開催される、その日だけ賑わう公園は目指す姿ではありません。そこで、村地方創生プロジェクトで連携している富山大学や、村主催の造園勉強会などで、地域振興やまちづくりについてアドバイスを受けました。そして、ひとつの試みとして、地域住民が主体となって企画段階から参加してもらう中でコミュニティを醸成することにチャレンジしようと、公園利用者と共に活動する組織「舟橋村園むすびプロジェクト」を立ち上げました。

舟橋村園むすびプロジェクト

「舟橋村園むすびプロジェクト」のロゴ。

公園のアイデアは子供に聞く!「こども公園部長」が誕生

金岡さん:オレンジパークは、これまで子供に使われていない公園でした。子供たちが大勢集まり「遊びたくなる公園」にするためには、最も公園を利用する子供たちの声を聞くことが重要だと考え、まずは対象を子供に絞って、一緒に活動するメンバー「こども公園部長」を募集することからはじめました。

「こども公園部長」募集に先駆け、まずはオレンジパークでPRイベントを実施しました。イベントの目的は、子供たちに公園で自由に遊んでもらうことでしたが、意外にも「穴を掘ってはいけない」「泥遊び やボール遊びもダメ」と、口を揃える子供たちに驚きました。子供にとって公園とは、さまざまな規制がある場所でもあるようです。モデル事業の公園には、極力規制は外したい考えがあり、イベント当日は「穴を掘る」「どろんこ遊び」「ボール遊び」など、子供たちには思いっきり自由に遊んでもらいました。

舟橋村園むすびプロジェクト

こども公園部長を募るために実施したPRイベントで泥んこになって遊ぶ子供たち

舟橋村園むすびプロジェクト

こども公園部長のアイデアが詰まった「未来予想図」。「ひみつきち」は、2018年夏完成予定

金岡さん:PRイベント開催後、「初代こども公園部長 」 7人(3年生:6人、2年生:1人)が誕生しました。2017年8月に行われた任命式では、名刺と顔写真入り名札のほか、どんな公園にするのか、家族や友達からの意見を聞いて記す取材ノートとペンが渡されました。

こども公園部長会議(月1~2回)で、オレンジパークの拡張部分をどんな公園にしたいか、アイデアを出し合ってもらいました。子供ならではの発想で考えた理想の公園は、「未来予想図」として1枚の絵にしました。未来予想図には、7人が共通して挙げた「水遊び場」「木登り」「秘密基地」があります。

まず水遊び場の実現に向けて、取り組みがスタートしました。子供たちが考えた公園のコンセプトは、「一緒に遊びたくなり、いつの間にか仲良しになる公園」です。例えば水遊び場は、切り株の階段を登ると手押しポンプがあり、くみ上げた水は「じゃぶじゃぶ池」と「泥んこスロープ」に流れ込む仕組み。池で遊ぶには、誰かがポンプを動かさないと楽しめないので、必然と大勢で遊ぶ工夫が盛り込まれています。

舟橋村園むすびプロジェクト

会議はこども公園部長の集中力が続く、開始から15分が勝負

インターネットで公園づくりの資金集め

金岡さん:水遊び場を作る費用について話し合った際、子供たちから「お金が無いのなら、24時間テレビのように募金をしたい」という声があがりました。子供たちにとっては、募金箱を手に持ち、寄付を呼び掛けるイメージがあったのでしょう。そこで、舟橋村には来ることができない遠くの人からも応援してもらえる方法として、インターネットで出資を募る「クラウドファンディング」を実施することにしました。

募集期間は2017年11月12日から2カ月間。目標額は、水遊び場の材料費や施工費用の100万円です。クラウドファンディングのタイトルは、「公園つくるんデス!日本一ちっちゃな村の小学生と造園屋さんの挑戦」で募集を始めました。

当初は村内や近隣の地域住民、公園利用者などからの支援を想像していましたが、結果的にはネットを通じて全国各地から多くの支援を頂き、公開11日目には目標の100万円を達成し、2カ月間で直接の募金も含め、254万円が集まりました。成功の要因は、「日本一小さな村」による子育ての取り組みが話題を呼び、子供たちが作った公園のコンセプトに、多くの方が共感してくれたことだと思います。クラウドファンディングの取り組みは、全国の方にこのプロジェクトを知っていただく良い機会になりました。

こども公園部長の仕事は、遊具のアイデアやイベントの企画から当日のイベントスタッフまで。そしてメディアの取材対応などの企画と広報も担当しています。「小学生が公園づくりに任命」という話題性から、これまで数多くの新聞とテレビの取材があり、子供たちは記者と名刺交換し、こども公園部長が思い描く理想の公園について語ってくれました。

2018年4月、完成した水遊び場の「おひろめかい」を開催しました。この日は新たに加わった3人の2代目こども公園部長(3年生:2人、2年生:1人)の任命式も行いました。初代、2代目共にこども公園部長は、遊具の破損を見つけるとすぐに報告したり、自分達でできるメンテナンスまでしてくれる頼もしい仲間です。

舟橋村園むすびプロジェクト

クラウドファンディングの資金で作った水遊び広場(こども公園部長撮影)

舟橋村園むすびプロジェクト

公園内の名前プレートはクラウドファンディングのリターンの一つ(こども公園部長撮影)

舟橋村園むすびプロジェクト

子供にもできる作業を選び、こども公園部長に公園づくりを手伝ってもらった

クチコミで広がるママさんボランティア

舟橋村園むすびプロジェクト

第1回の「月イチ園むすび」の手作りチラシ。当日は111人の参加者があった

金岡さん:2代目のこども公園部長が新たにメンバー入りしたことで、プロジェクトメンバーは、造園業者が(3社から)9人、事務局は住民のママさんが3人、こども公園部長10人とその保護者が18人、キャンプリーダー1人、村の行政スタッフが3人の計44人(2018年5月現在)になりました。

私たちと一緒に公園で活動してくれる「人」集めには苦労してきました。単に「ボランティア募集」では集まらないことが分かり、「これを手伝ってほしい!」「○○を一緒にやりましょう!」と、一人ひとりにピンポイントで声を掛けてきたことで、徐々に一緒に活動してくれるスタッフが増えてきました。特に、こども公園部長とその保護者の参加が増えたことで、流れが変わったように感じます。さらに子供たちの親御さんを通じて、子育て世代の若いママさんたちが参加してくれるようになりました。

平成30年度からは毎月1回日曜日に、「月イチ園むすび」と題したイベントを開催しています。少しずつではありますが、ママさんたちが自主的にイベントの企画からチラシ作りまでを担当してくれるようになり、今ではママさんたちが貴重な戦力となっています。

子供たちに公園を好きになってもらいたい

舟橋村園むすびプロジェクト

オレンジパークを自分たちの公園だと、大切に思っているこども公園部長たち

舟橋村園むすびプロジェクト

はにかみながら「楽しそうだから、こども公園部長になった」と話してくれた2代目こども公園部長たち

金岡さん:5月のイベントで、大工さんや造園屋さんの「仕事体験イベント」を実施した際、プロの造園屋による指導で、実際に公園の木々を剪定してもらいました。参加した子供たちからは「楽しかった!」と好評でした。将来、庭づくりや造園に興味をもつ子供が増えることを期待して、今後も定期的に開催する予定です。

毎月1回のイベントはネタ探しに苦労しますが、大掛かりな内容ではなく、公園だからこそ可能なイベントを企画するよう心掛けています。近い将来、地域住民が自主的にイベントを立ち上げてもらえるような、基礎を築いていきたいと考えています。

8月にはこども公園部長が企画したイベントを予定しています。子供たちの自由な発想は、時には戸惑うこともありますが、我々大人たちが「そんな企画はできないよ」と否定するのではなく、どうしたら実現できるかを一緒に考えることが大切です。公園のファンになってもらうためにも、子供たちが描いた夢を、一つひとつ実現することが私の役割です。

今後の目標は、一人でも多くの子育て世代の親御さんに公園と関わってもらうことと、こども公園部長に女の子も加入してもらうことです。
プロジェクト名「園むすび」の名称の由来である、公園が多くの住民の「縁」を結ぶ場所になるよう、実現に努めます。

舟橋村園むすびプロジェクト

2018年4月10日に行われた水遊び場「おひろめかい」

関連サイト

舟橋村:http://www.vill.funahashi.toyama.jp/

舟橋村園むすびプロジェクトfacebook:https://www.facebook.com/funahashi.enmusubi/

※文中に出てくる所属、肩書等は、取材時のものです

記事提供:公園文化WEB(PARKFULパートナー)
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