豊島区といえば、近年最も話題となった公園事例のひとつ「南池袋公園」のある街。2020年を目標に、池袋駅を中心としてさらに3つの公園整備を進めており、公園による地域の賑わいづくりに精力的に取り組んでいる自治体です。そんな中で今年度、小規模公園に着目したプロジェクトが始動しました。豊島区がなぜこのような“公園まちづくり”に取り組むのか、同プロジェクトに協業するPARKFULではこのたび豊島区長 高野之夫氏にお話を伺いました。インタビュアーは、コトラボ共同代表の深澤幸郎です。
豊島区の直面していた地域課題の先に公園があった
深澤:南池袋公園は大きな話題となり、賑わいを生んでいますが、そこから小規模公園の活用へ取り組むことになった背景について、お伺いできますか?
高野之夫氏(以下、高野):豊島区は日本一の高密都市です。山もない、川もない、畑もない。そして、住民一人あたりの公園面積が、23区でダントツ最下位なんです。実は公園の数はたくさんあるのですが、大きな公園が無く、小さな公園ばかりなんです。それをどう活かしていくか。これまで、区でもメンテナンスはしてきたわけですが、遊具も置けないような小さな公園もある中で、どのように活用するかが課題であると考えていました。
高野:2014年に「消滅可能性都市」として名前が上がったことから、「女性にやさしいまちづくり」という方針を打ち出しました。そこで宮田麻子さん(当時:女性にやさしいまちづくり推進課長、現:「わたしらしく、暮らせるまち。」推進室長)にも入ってきてもらったわけですが、まず子育て環境を整えるべく、待機児童解消に向けて保育園を徹底的に作るようにしました。この庁舎の2階にもありますし、スーパーの中やマンションの一角など、あらゆるところに保育園を作っていったのですが、7割以上の保育園が園庭が無い状態で、園児の遊び場を確保することが課題でした。そこで、小さな公園がたくさんあることが、活かせるのではないかと考えました。この庁舎にある保育園も、南池袋公園へお散歩に行くわけですね。
子どもと女性の視点でまちを見渡す
深澤:なるほど、公園を地域の課題解決に活用しようと考えたわけですね。園庭への活用ということですが、具体的にはどのようなところから着手したのでしょうか?
高野:私がまず必要だと考えたのは、子どもたちが抵抗なく使えるトイレ、女性も使いたいと思えるトイレです。そこで、85箇所の公園トイレの改修に向けて動き始めました。
区長になってすぐの頃から、トイレにはとてもこだわりを持っています。当時50年以上が経過した古い庁舎はとても傷んでいて、本当にひどい環境でした。財政も厳しかったのですが、職場環境改善が必要だと考えました。その第一歩として、トイレを綺麗にしたのです。結果的に、他の部分が傷んでいても、トイレがきれいになったことで環境は劇的に改善しました。そこから、学校のトイレや公衆トイレもきれいにしていき、「トイレの区長」とまで呼ばれたほどです。そして次が公園トイレです。
実は、公園に自動販売機を置かせてほしいという話もあったのですが、自動販売機というのは公園の一番良い場所に置かれるんですね。しかし、近くにコンビニもありますし子どもたちのための公園に必要なものは本当にそれなのか、と考えたときに、お断りをしたという経緯もあります。
今、旧庁舎跡地の再開発で公園と複合施設を作っていますが、施設の2・3階には大々的にパブリックな女子トイレを設けています。私はやはり綺麗なトイレを大事にしたい。反対もされたのですが、女性にも安心して利用してもらえる場をつくれば、街として人気になるはずだという強い信念があります。
アートトイレが、公園に文化と交流をもたらす
深澤:トイレについては、豊島区のアートトイレの取り組みについて私自身も大変関心を持っているのですが、この施策にはどのような狙いがあるのでしょうか?
高野:消滅可能性都市と言われた当時、豊島区としてのまちづくりの将来像が当時明確にありませんでした。そこで議論を重ねた結果、豊島区の地の利や外国人住民の多さ、今後国際交流も重視していくべきという考えのもとで、「国際アート・カルチャー都市」を打ち出しました。私は、人が集まって交流することが、文化だと思っています。そして文化を通じて賑わいができれば、経済力もあとからついてくるはず。「文化」を大切にしたまちづくりというのは、すぐに結果は出ないけれど、区長になった当初から強い思いを持っていました。
そんな中で、宮田さんからアートトイレの提案を受け、私は大賛成しました。
深澤:トイレとアートというのは、すごい組み合わせだと思います。人を巻き込む存在であるアートと、隠したかったトイレと。
高野:そうですね。できるだけ目立たないように作るというのが、これまでの公園トイレでしたが、逆に目立つ、華やかな公園全体の雰囲気を変えるトイレにする。トイレが公園の中心になる。アートというのは人の心を豊かにする、とても大きな力があると思います。私はトイレも大事な文化だと思っていますから、アートトイレというのは豊島区の大きな特色になっていくと思います。
深澤:一方、課題というのはありますか?
高野:やはり財政は課題です。今回のアートトイレは、従来より低コストで作っていますが、これは30年50年持つものを作るのではなく、10年持てばいいという考え方によるものです。傷んできたらまた新しく作り直せばいい。できるだけ一度にお金をかけずに、小さく回していく。その分、区全体で広くやっていきたいと思っています。
小さな公園はコミュニケーションを生み出す「地域の庭」
深澤:10年後どうなっていくか分からない中で、なかなか打ち手を出せずにいる自治体も少なくないと思いますが、豊島区では少し長いスパンで、文化・アートという軸があることが分かりました。
では、住民にとって今後より身近な存在になっていくであろう小規模公園について、10年後どんな風景になっているといい、という想いなどはありますか?
高野:今後も、豊島区は一戸建てが減り、さらに密集化していくと思います。そうすると、潤いがほしいと思っても庭は無いわけですね。そこで小規模公園が自分たちの庭のように、親しみを持って利用してもらえる場になると良いと思ってます。また、どんどん共同住宅が増えている中で、いまは町会も加入率が50%を切っています。災害時などは、近隣同士がお互いに助け合っていかなくてはいけませんが、マンションが孤立してしまって、地域とのコミュニケーションが取りづらくなっていることが課題です。そこでも、公園がみんなの庭としてコミュニケーションの場を提供してくれる。例えば、いまでも多くの公園でラジオ体操が行われていますが、それはすぐ近くに公園があり、人が集まれる場があるからできることです。
深澤:公園が活用されていくために、公園と住民のつながりというのは、どのように生まれていく、あるいは作っていくとお考えでしょうか?
高野:行政がああしてこうしてではなく、地元の人が自分たちで作っていくという過程を大切にすることだと思います。アートトイレにしても、地域の若いデザイナーや園児たちに絵を書いてもらったり、地域の方と一緒に考えながらやっていくようにしています。そして作った後も「自分たちが作った、自分たちの公園」として、近隣の方が清掃に参加してくれたり、みんなで公園を運営していくというのがあるべき姿ではないでしょうか。
公園というのは、地域への愛着を作ってくれる役割もあると考えています。小規模公園にもいろんな顔がありますので、約160ある公園それぞれの活用を通じて、いろんな楽しみ方が生まれていくことを期待しています。そして、自分たちの誇りに思えるようなトイレであり、公園であり、憩いの場であってほしいですね。
小規模公園の活用が、豊島区全体を豊かにする
深澤:最後に、豊島区における公園まちづくりの未来について、今の想いをお聞かせください。
高野:小さな公園から街を変えていくというのは、まだ他の自治体には無いのではないでしょうか。私自身、区長になってから区内を4回引越していますが、新しい街に行くごとに近くの小さな公園には、なるべく時間を作って訪れるようにしています。どのように使われているのかを、見るんですね。そこで感じるのは、こうした街中にたくさんある小さな公園が活用できてくれば、豊島区全体のイメージがよくなってくるだろうということです。
私は常に、ピンチにはチャンスがあると思っています。消滅可能性都市というのは大きなショックでしたが、あれが無ければこのような知恵や発想も出なかったし、国際アートカルチャー都市などという明確な将来像を描き、大きな舵取りをすることもきっとありませんでした。ピンチの中で、どうチャレンジしていくか、挑戦していくかが大事だと思います。
来年は豊島区で「東アジア文化都市」の開催が決まりました。これも、文化によってまちづくりを進めてきた成果だと思っています。地域の一人ひとりが文化への意識を持ち、知恵を出しながら、小規模公園を文化やコミュニケーションの場として活性化していければと思います。
豊島区小規模公園プロジェクト ✕ PARKFUL
小規模公園の活用を通じて、地域コミュニティの活性化や地域住民の主体的な活動につなげていくための事業。IT技術を通じた公共空間の賑わいづくりを目指すコトラボでは本プロジェクトの方針に共感し、「PARKFUL」の強みを活かした協業に取り組んでいます。詳細は下記よりご覧ください。