梅雨の晴れ間に恵まれた6月某日。公園づくりに携わり、ご活躍中の島田智里さん、宮田麻子さん、三谷繭子さんに浜離宮恩賜庭園にお集まりいただきました。およそ1年前の弊社主催のイベントでもお招きした3名。1年ぶりの再会が実現しました。
今回は、「小さな公園を考える。」というテーマのもと、日本とニューヨーク、行政と民間という異なるかたちで公園づくりに携わる3人の会話の中から、公園づくりのヒントや可能性を見出せればと思い企画しました。ピクニックをしながら、リラックスした雰囲気の中、テーマの枠を超えて幅広いトークが展開されました。その様子を5回に分けてお届けします。まずは、近況報告と最近気になっていることのお話から。
小さな公園の活用の取り組み “そもそも、「活用」とは?”
豊島区 政策経営部 「わたしらしく、暮らせるまち。」推進アドバイザー
ニューヨーク州立大卒。外資系メーカーのマーケティング職やマイクロソフト日本法人の広報を務めた後、フリーランスでPR業務に従事。2016年4月に豊島区の民間公募で女性にやさしいまちづくり担当課長(現 「わたしらしく、暮らせるまち。」推進室長)に就任。区内の民間企業や大学、地域内のコミュニティとの連携により、小規模公園活用をはじめとしたプロジェクトやメディア運営などを
ーここ1年の活動と最近気になっていることなどありましたら教えてください。
宮田: 昨年お会いした時は、ちょうど豊島区の小さい公園の活用プロジェクトが始まったばかりというとき。そのあと、本格的にプロジェクトが始まったという感じですね。コトラボ(現、パークフル)さんと協業し、公園の全域調査をし、公園の設備や周辺環境の状況を数値化、ある程度科学的根拠に基づいて重点公園を選びました。その選んだ公園をどのように活用していくかということを1年やってきました。
地域にはさまざまな人がいて公園ごとで事情が違う。公園が賑わえばいいっていうものでもなく、何をもって「活用」ということが結構難しい。住宅街の中のひっそりとした公園がいきなりマルシェで賑わうのは活用の成功と言えるのか、など。そもそも活用の定義づけが必要ということで、まずは公園の現状把握のための地域のヒアリングやワークショップを行いました。公園でのファニチャーや遊具を活用した実験を中心に取り組んでいるところです。
公園を選ぶところからその先の地域との対話、どうなったら公園活用と言えるのかと言った評価軸、また、進め方のメソッドなどいろんな意味でこれからという状況です。
市民がコミットした公園づくり “自分たちで試してみる”
株式会社Groove Designs 代表取締役
筑波大学芸術専門学群卒業、同大学院人間総合科学研究科修了(デザイン学修士)。コンサルタントとして土地区画整理事業などの大規模開発に従事し、エリアマネジメントやパークマネジメント等における整備から運営までのスキーム構築、地域コミュニティと協働した事業推進等を行う。2017年Groove Designsとして独立し、全国各地で公共空間利活用や地域主導のまちづくりプロジェクトを支援している。また、認定NPO法人日本都市計画家協会理事、一般社団法人アーバニスト理事として、持続可能な都市づくりのためのオープン・イノベーション・プラットフォーム「シティラボ東京」の運営を行っている。シティラボ東京 https://citylabtokyo.jp/
三谷: 私は、公園の改修に関する仕事に携わってきました。全国各地で作られた公園は、現在、施設の老朽化による改修や、社会的ニーズに応えるための在り方そのものの再検討を迫られています。現在取り組んでいるのは、単に公園のハードを改修するだけではなく、市民の方にコミットしてもらい、公園のあり方そのものを変えていく、公園の使い方を考えていくプロセスを作っています。
昨年度社会実験をした公園では、市民の方たちに自分たちがこのように公園使いたいという取り組みを実際に試してもらうことで、これからの公園の可能性を可視化して、机上のワークショップだけではなく、自分たちで試してみることで課題ややれること、どういう組織を作っていくことが必要なのかなどをディスカッションしました。その中で市民の方から焚き火をしたいという要望も出てきました。
島田: 日本の公園では火を使ってもいいのですか?
三谷: 公園での火気は基本的にダメと言っているところが多いですが、マンションに住んでいる住民の人たちは自分の庭がないから子供達の学びのために危険な遊びをさせたい、そういう体験をさせたいという思いがあることがわかりました。生活の一部や教育の場としてももっと公園を使いたいというニーズが見えてきて、これまでは規則としてNGといっていた行政側のスタンスと市民のニーズの壁を取り払うことで、とりあえずやってみよう!というハードルをまず一つクリアしたところです。やってみることで市民の方々のモチベーションも上がってきて、市民で公園を考える会を作ろうという話になってきたりしています。
NY市公園局の取組み “作るではなく、使われる公園”
ニューヨーク市公園局 都市計画、GISスペシャリスト
米国ニューヨーク市在住。京都府立大学農学部で学位取得、ニューヨーク市立ハンター校で都市計画修士号取得。在学中、マンハッタン区長室による初の都市計画フェローシッププログラムで第一期生に選出され、以来様々な地域開発プロジェクトに携わる。その後、ニューヨークの建築会社で勤務し、2009年よりニューヨーク市公園局に勤務、現在に至る。2012年にアメリカ都市計画学会ニューヨーク支部経済開発委員長に就任。
島田: 私の場合、自分の活動というよりNY市公園局が最近行っていることになるのですが、コミュニティパークスイニシアティブ(以下CPI)というプロジェクトがあります。2014年から2020年までの間、これまで公園設備が不十分だった地域へ投資をして市全体の公園改善を行うというもので、データ分析を利用して優先エリアを選定し、公園の新設やリノベーションなどをしています。これらの公園の多くは観光客があまり行かない、主に住宅街の小さな公園やプレイグラウンドになります。
宮田: そのリサーチの優先順位はありますか?
島田: まず、過去20年間で設備投資が2800万円以下のエリアを選びます。その中でも人口密度が高い、貧困層が多い、そしてプログラムを導入する機会があるところが優先されます。
宮田: 私たちでいうと公園の担い手やとっかかりがあるかなどの、機運の部分ですね。住民層、エリアの抱えている課題の多さ、また地域がどれだけ公園を必要としているかというところの数値化の重み付けの部分にまだ課題を抱えています。
島田: 先ほど何をもって「活用」かという話がありましたが、公園は地域の持つアイデンティティ活かされ、市民ニーズを満足していることが重要なため、公園ごとでどの部分の「活用」か異なると思います。なので「活用」の捉え方は全国統一で同じである必要はないことを共通認識として持って議論をすることが必要ではないかと思います。
CPIでは地域が求めるものを作る、ということで設計前に市民参加を呼びかけます。設計側が作り終わってから、こうしましたと事後報告するのではなく、設計前にこの空間に何が欲しいかをコミュニティと一緒に考えて案を作り、そこから計画して設計します。
そのため普通の公園のリノベーションよりも時間がかかりますが、このようにカスタマイズすることでそれぞれの地域が求める、地域に調和するものを作ることができます。それゆえ、公園を更に使ってもらえる、より頻繁に使うということは地域住民の今後の公園管理の参加にも繋がる、という長期的効果を期待しています。また、リノベーションと同時に、行政の長期的な環境計画も考慮して、エリアの美化にも繋がる緑化空間を利用した雨水のコントロール法を導入するなど、グリーンインフラも複合的に取入れています。
実際の様子を見ようと思い、平日の夕方にCPIの公園を見に行ってきました。これは、マンハッタンのハーレムにある”Martin Luther King, Jr. Playground”という公園で、低所得者向け住宅エリアにあります。
かつては荒廃していた公園も、色とりどりの遊具、芝生のオープンスペース、屋外ジムなどの施設が導入され、公園内にはベンチが幾つも配置されて滞在しやすくなっており、子供からお年寄りの方まで皆さん気持ち良く使っているようでした。昔は背の高いフェンスでしっかり囲まれていたのも、木々などの緑によってフェンスが浮き出ないように工夫されて周辺環境にも馴染んでいました。作るではなく、使われる公園になっているという印象を持ちました。
(#2へ続く)
次は、公園の活用にとって大切な市民参加についてフォーカスして議論が展開されます
好きな公園:新宿御苑、富山運河環水公園、チュイルリー公園(パリ)
どこにいっても誰もが自由に入れるのが公園。全国・世界各地の旅先で公園を訪れ、見比べるのを楽しんでます。